「AIを使いこなす」というと、AIの横に張りついて指示を出し続ける姿が浮かびますが、私がいちばんよく話しているAIは、仕事をほとんどしていません。役目は秘書です。Claude Code(コードを書いて動かすところまでやってくれる Anthropic のAI)に持ち場を割り振っていったら、こういう形に落ち着きました。
全部自分で見ていると、そこが上限になります
AIを道具として使っているあいだは、指示して、出てきたものを読んで、直してもらって、また指示して、の繰り返しです。便利なのは間違いないのですが、自分の目が届く分までしか仕事が進まないんですよね。優秀な部下を全員、自分の席の横に座らせているようなものです。社長がこれをやると、会社の大きさが社長の机の大きさで決まってしまいます。
そこで、Claude Code のひと続きの会話(セッション)に持ち場を持ってもらうことにしました。このサイトでいえば、ページの形を見るセッションと、コラムの中身を見るセッションは別々です。それぞれを部長のように扱っていて、その下ではサブエージェントという、指示書だけを受け取って別に動くAIが働いています。その仕事ぶりを、私は見ていません。
ふだん話しているのは、部長ではなく秘書です
私がふだん話しかけているのは、実はその部長たちでもなくて、手を空けて待っているもう一つのセッションです。いちばん近い呼び方は秘書かなと思います。
いい秘書というのは、自分で全部片付ける人ではなくて、社長のぼんやりした一言を、各部署に通じる仕事に直して渡してくれる人だと思います。このセッションの決まりも同じで、話を聞いて、作業は部長やサブエージェントに振ります。自分でやっていいのは状況の確認みたいな小さな用事だけで、迷ったら振る、と書いてあります。
なぜそこまでするかというと、手がふさがっている相手には次の相談を持ち込めないからです。社長室の前に決裁待ちの列ができている会社を想像していただくと、話が早いかもしれません。人間相手に「仕事はいいから手を空けておいて」とはなかなか言えないので、まあ、ぜいたくな話です。
頼むときは、指示書に4つ書いています
別の記事で、AIに仕事を頼むこと自体が小さな要件定義だ、という話を書きました。組織にすると、ここがごまかせなくなります。人間の部下なら、雑な指示には顔をしかめて聞き返してくれますが、AIはたいてい顔をしかめません。足りない分を黙って補って、もっともらしいものを持って帰ってきます。しかも、どこを補ったのかは見た目では分からないんです。
なので指示書には、対象、やること、完了の条件、やってはいけないこと、の4つを書きます。前の2つは誰でも書くので、効いてくるのは後ろの2つです。どうなれば終わりかを言えない仕事は、いつまでも終わらないか、勝手に終わってしまいます。やってはいけないことのほうは、人間の職場なら「常識でしょ」で済ませてきた部分で、指示書しか受け取らない相手にはその常識が届きません。
AIへの指示がうまく書けないときは、AIがどうこうというより、ふだんの頼み方のほうに原因があったりします。
下は見ませんが、結果は確かめます
「下は見ない」と言うと放任に聞こえそうですが、見ないのは過程だけで、結果は確かめています。
一度、こんなことがありました。秘書がコラムの方向づけについて提案を持ってきたので、感想を聞いてみたら、記事を読んだのはサブエージェントで、秘書本人はその報告しか読んでいなかったんです。全文を読んだら意見が変わって、提案の一部を自分で取り下げていました。要約だけ読んで会議で堂々と発言する役員って、どこの会社にもいますよね。AIにもいました。
作業の手順までは見なくていいけれど、何か意見を言うなら現物は読むこと。このあたりが落としどころだと思っています。仕上げの批評には別の会社のAIにも入ってもらっていて、いわば社外監査役です。
決まりと記録は、AIの組織にも要りました
セッションは前の会話を覚えていません。毎朝すべて忘れて出社する部長みたいなもので、人間だったらかなり心配になります。そこで、決まりを書いた1枚と、決めたことと理由を新しい順に書いた記録を置いています。要は就業規則と議事録です。次のセッションは、その先頭を読んでから仕事を始めます。
議事録は2か月足らずで2万字を超えていて、AIの組織でも、放っておくとこういう文書は立派に育つようです。とはいえ、本人にしか読めない記録は、記録というより日記です。後から来た人が読める言葉で書いておくべきなんですが、これは完全に自分に言っています。
人でもAIでも、つまずくところは同じです
AIがうまく働かないと、つい、どのモデルが賢いかを比べたくなります。気持ちは分かるのですが、持ち場を切り分けられない、頼みたいことを言葉にできない、結果の確かめ方を決めていない、という組織は、相手が人でも同じところでつまずいていると思うんです。
任せ方は、人でもAIでも同じ崩れ方をします。ということは、直す場所も一か所で済むわけで、悪い話ではありません。AIへの指示書を4行で書けるようになった上司は、たぶん人への頼み方もまともになります。少なくとも、部下が顔をしかめて聞き返す回数は減るんじゃないでしょうか。
吉村 尚悟